真剣な仕事への思い
先だって、立て続けにふたりの女子高校生の相談をうけました。
ひとりは直接会い、ひとりは電話での吃音ホットラインの相談です。
直接会った高校生は、言語聴覚士になりたいとの夢をもっています。吃音でなやんできたから、コミュニケーションに障害がある人が少しは理解できるし、何か役に立ちたいというのです。ところが、最近、学校で発表する機会があり、かなりどもったらしく、君の発表はもういいよと、先生から言われました。先生の思いやりなのでしょうが、本人は、情けをかけられたことが一番悔しくていやだったと言います。情けをかけ、思いやりのつもりが、実はその人を一番傷つけていることに気づかないし、そのような優ししと自分で思っている人は、将来も気ずつ子とはないでしょう。
そのような経験があるので、果たして言語聴覚士になれるかどうかの不安が強くなってきたというのです。かなりどもりながら、言語聴覚士をしていた人、教師の話をしました上で、「他に、したいと思う仕事はないか?」と尋ねると、「理学療法士か、ジャーナリスト」だと言います。
「そうか、あなたは、新聞もよく読み、政治や経済、社会の出来事に興味があり、また人とかかわる仕事がしたいんだね。だけど、少し自分では、ちょつと吃音の状態が、仕事をするうえでどうかなあとおもっているのかな」
と確認しました。
そうだと言うので、これはぼくから考えてということだけど、吃音という観点だけからすると、一番可能性が高いのは、理学療法士かな、もちろんことばはどの仕事でも重要な位置をしめているけれど、言語聴覚士よりは、少しはことばを使う頻度がすくないかもしれない。だけど、一番したい仕事が、言語聴覚士なら、挑戦してもいいとおもうよ。吃音はいまの状態が続くとはかぎらなくて、かなり変化していくもので、「治す・改善する」目的の言語訓練はしない方がいいけれど、社会人になるために、自分の言葉を育てるのは大切なことだから、一日20分程度、自分のことばとつきあうことはいいよ。僕は、歌ではどもらないから、高校生ぐらいのころ歌をよく歌っていた。歌がすきならよく歌うといい。
それと、新聞のコラムや社説を声を出して毎日読んでごらん。その時「親、教師、言語聴覚士が使える 吃音ワークブックに、日本語の発音・発声の練習、話しことばについて、かなりくわしく書いたから、それを読んでことばとつきあってごらん。そして、よかったら、一年後もう一度あいましょう。その時、また仕事についてかんがえましょう」
こう言ってわかれました。どもる僕たちだから、はやく仕事について、自分の考えをもち、そのための勉強をしたり、適切であれば、してもいい、ちょっとしたトレーニングをするのはいいことだと思う。成人式の時、話せない、発表も、電話もできない僕がどんな仕事につけるのか、漠然とした不安をもっていたことを考えれば、高校一年からこのように真剣に仕事について考えている高校生に尊敬の念をもちました。一年後、彼女は僕に会いに来てくれるだろうか、不安でもあり、楽しみです。
もうひとりについては、明日時間がとれれば。
2010年11月27日
日本吃音臨床研究会 伊藤伸二