
8月20日、21日、岡山県教育センター閑谷学校で、第9回吃音キャンプがありました。最初始まった時は、「3年は続くといいね」と、スタッフと話し合っていたものでした。キャンプを始めた人が次々と、ことばの教室の担当を離れて、教育委員会の指導主事に転出していく中で、果たして継続できるか心配していたのですが、継続していく人たちがいて、すごいことだと思います。岡山県のことばの教室の先生とは長いつきあいがあります。そのきっかけになっているのが、神奈川県久里浜にある、国立特別支援教育総合研究所です。私は毎年言語障害教育の研修の吃音の講義を担当させていただいているのですが、その研修に毎年岡山県は教員を派遣しているのです。
キャンプの中心的な役割をしている人の多くが、その研究所で出会った人たちなのです。だからとても気心が知れれていますし、私を信頼もしてくださっているのです。そんなわけで、このキャンプだけでなく、岡山県の言語障害教育の研修会に何度も講師として呼んでいただいています。そのつながりがあるから、9年も続き、来年の10回目のキャンプも計画が立てられるのでしょう。
私は、保護者への講演と、保護者の話し合いの担当が主な役割ですが、回をかさねるにつれて、親がどんどん変わっていくのがわかります。参加一年目と二年目は親の落ち着きが違います。そして、その親が新しい親に対してとてもいい影響をします。今回こんな話がありました。
一日目の私の講義では、吃音は治らないものと考えて、吃音に負けない子どもに育てようと、いつものように話をするのですが、二日目の座談会というか、自由な話し合いでは、素直な、率直な気持ちが表現されます。今年初めて参加したお母さんが、「みなさんの話を聞いていると、明るく、子どもの吃音を認めて、子育てをするという話がほとんどで、私の場合、みなさんのような展望がもてずに、余裕がない。お先真っ暗です」と、涙ぐんで話されました。丁寧に今の気持ちをお聞きしていると、私の考えに出会うのは初めてなので、とまどい、不安になる気持ちはよく理解できます。すると、他のお母さんが、「私も昨年はあなたと同じような状態で、暗い状態でしたよ」と話されると、口々に、「私もかつてはそうだった」と、子どもの吃音を治してあげたいと思っていたときの気持ちを話されました。
それぞれの親の一年の変化を話され、いろんな思いや考えをもちながら、ことばの教室の担当者との話し合いや、キャンプでの私の講演や私の著書を読んだりしながら、少しずつ変わっていく親の柔軟性に、敬意を表しています。子どもの幸せを願って、いつまでも治してあげたいと考え続けることが、子どもにいい影響を与えないことを多くの親は学んでいきます。そして、まだ悩みのある親に対する、温かいまなざしの先輩の親の姿に、セルフヘルプグループで長年生きてきた人間としては、グループはいいなあと思ったのでした。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2011年9月5日